栃木県小学生殺害事件

事件概要

2005年12月1日、栃木県の北西部、栃木県の中心地からおよそ20Km離れた今市市(現日光市)で、小学校1年生(7歳)の女児が行方不明となった。2日後の午後2時頃、連れ去り現場からおよそ65㎞離れた茨城県常陸大宮市の山中で、腕や口を粘着テープでふさがれた女児の遺体が発見された。

犯人は未検挙である(2009年12月現在)。

1、事件概況

被害女児の通う小学校は市の中心部から車で15分ほどの日光街道沿いに建っている。自宅からはおよそ1.5㎞離れた地点に位置し、女児はその道程を毎日徒歩で往復していた。事件当日、女児は同級生3人と共に下校したが、三叉路の地点で同級生2人と別れたのが午後2時50分頃である。

三叉路を進むと薄暗い雑木林に入り、そこを抜けた辺りに荒廃した倉庫がある。

事件現場や周辺の環境を診る(診断)のに、防犯環境設計=CPTED( Crime Prevention Through Environmental Design )の考え方が役立つ(注)。その基本的考え方の1つが「人間の行動は環境によってコントロールすることができる」である。対象への接近制御、監視性、領域性や対象強化を基本4原則とし、防犯という目的に向けて、環境の配置換えや物の形を変えることにより、自然に人間の行動をコントロールしていく。すなわち犯行に及ぼうとする人間の行動を制御し、犯罪を予防するというものだ。この考え方に拠っているのが犯罪機会論である。

この4原則を反対側からの視線、すなわち犯罪企画者に置き換えて事件現場周辺の環境を診れば、犯罪企画者にとって行動のしやすさが見て取れる。

例えば、先の倉庫の周囲は奔放に伸びきった草木に覆われていることから、倉庫と辺りの土地との境界線を曖昧にし、雑木林から続く薄暗く寂しい雰囲気からは子どもへの見守りや監視の目が期待できないことを印象付ける。領域性・監視性の低いこうした環境は、対象への接近性が高く犯罪企画者の行動を容易にさせてしまう。

さらにその先には1軒のアパートと戸建て住宅があり、事件捜査の警察犬はこの地点で女児の匂いを失ったことから、ここで車に乗せられ連れ去られたのではないかと考えられている。実際、付近で不審な車が目撃されており、遺体発見現場である茨城県常陸大宮市でも同様に目撃されている。

ただし、筆者の聞き取りによれば、匂いは消えていたとしても、その地点より先で女児を目にした住民の話から、女児はアパートと民家を越えて先に歩みを進めていたと診ることもできる。

2、地域の拡散

一方、雑木林を抜けしばらく歩みを進めれば、そこには広大な田畑が広がり地元の人が農作業する姿を見かけ、車ともしばしば行き交う。女児の匂いが途絶えた地点にある民家の脇からは林道へ続く入り口があり、ここは今では“正規通学路”と呼ばれている道と女児宅への近道の分岐点でもある)。実は“本来の通学路”は別にある。女児は時折“正規の通学路”とは別に林道を近道として使用していたという証言もあるものの、事件当日その道へ入って行ったかどうかは定かではない。

この林道へ足を踏み入れると、バブル時代に買い上げられた土地には開発予定を掲げた古看板が立ち並び、ゴミの不法投棄場所として住民の目の行き届かない土地と化している。地元の大人でも滅多に足を踏み入れない人気(ひとけ)のない場所として認識されており、筆者が単独で調査に訪れた際も、地元の人に「1人では入らない方がよい」と念を押されたほどであった。それにもかかわらず踏み入った近道は、人里から孤立した林の中に道ともいえない道が続き、方向感覚を失わせる。明らかに人気のない静寂さが耳を貫き、身の危険を覚えるほどだ。

女児の自宅は、この林を抜けた地点にある。旧来からの土地の一角に新興住宅地がつくられ、戸建て住宅やアパートが立ち並んだ。宅地内は主に他県からの新規参入者である若い世代などが暮らしている。人の寄り付かない林道や広大な田畑と、現代的で洒落たこの住宅群は対照的である。さらに対照的なのは、その現代的な住宅群の隣地には所有者のわからない廃車や放置ごみ、落書きが見られたことだ。公共空間に持ち込まれたこれらの私物は、住民間に生じている土地への愛着という心理的温度差を象徴するかのように、物理的なズレを生じさせ隙間をつくり出している。そこへ犯罪が入り込んだと考えることもできる。

次に分析する兵庫県加古川市の事件も同様であるが、全国的に交通網が整備され発達した今日では、犯罪や犯罪企画者が各地へ移動するのを容易にする上、個人が匿名化されやすく検挙されにくいという特徴を有している。本事件現場周辺は、日光宇都宮道路が国道119号及び120号のバイパスとして宇都宮市と日光市を結んでいるため、犯人が他の地域からここへやってきて、遺体遺棄現場である茨城県常陸大宮市へ移動することも難しくない。現代社会が追求してきた利便性の表裏で犯罪が生み出されたともいえる。

「0歳からの子どもの安全教育論」宮田美恵子 より
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